増田治療室
ブログ
臨床治療家向け 〜呼吸と心理の解剖〜
【ヨガ×脳科学】
鼻呼吸が「心の安全装置」を目覚めさせる
〜扁桃体・トラウマ・ユング心理学・ポリヴェーガル理論から〜
私たちは日々、 仕事、人間関係、家族、情報の洪水の中で
“無意識にストレスを受け続けています”。
そのストレスを感じ取っている中心が、 脳の奥にある 扁桃体(へんとうたい) です。
「不安」「緊張」「恐れ」
こうした感情は、実は扁桃体の仕事。
そして、 ヨガ・呼吸法(特に鼻呼吸)は
この扁桃体の働きをもっとも優しく整える方法です。
今日は なぜ鼻呼吸が心のトラウマを緩め、 脳の処理能力まで高めてくれるのか を、
心理学と神経科学の視点から紹介します。
◆ 1|鼻呼吸は「心の安全スイッチ」
——扁桃体に直接アクセスできる唯一の呼吸
鼻から入った空気は、 ただ肺に届くだけではありません。
私たちの脳は、鼻の奥から入る空気の変化を 直接、扁桃体へ伝える特殊な回路 を持っています。
これが意味するのは:
● 鼻呼吸は「扁桃体の緊張をゆるめる」
● 鼻を使うと「心の危険信号をオフにしやすくなる」
ということ。
つまり、 ヨガの鼻呼吸は “情動の冷却装置” を自然に起動します。
◆ 2|鼻が詰まる時は「脳の処理量オーバー」のサイン
ヨガの生徒さんでも
「最近、鼻呼吸がしづらい」
「匂いが分かりにくい」 という声を度々聞きます。
実は、これは身体の判断で、
● 外からの情報が多くて処理しきれない
● 感情の負荷が強く、扁桃体が疲れている
● 無意識のトラウマが刺激されている
そんな時に、 脳が“これ以上は受け取りたくない”という防御として
鼻を閉じることがあるのです。
だから鼻が詰まる時ほど、 鼻呼吸があなたを助けてくれます。
◆ 3|トラウマは「扁桃体の凍結」 ——ユング心理学 × 神経科学
ユング派心理学では 「心の影(シャドウ)」が処理されずに残ると、
人生の中で繰り返し同じパターンが現れると言います。
神経科学では、
トラウマとは “扁桃体が危険を記憶したまま 情報処理が停止している状態”
と定義されます。
つまり 心の影が溶けずに凍ったままの状態。
そしてこの凍結を溶かす鍵は 「安全の感覚」。
その“安全スイッチ”を押せるのが 鼻呼吸と迷走神経です。
◆ 4|鼻呼吸が迷走神経(安全の神経)を目覚めさせる こ
こで ポリヴェーガル理論 が登場します。
ポリヴェーガル理論では 私たちの心はつねに3つの状態を行き来しています。
① 安全・落ち着き(腹側迷走神経)
② 戦う・逃げる(交感神経)
③ 凍りつく・無感覚(背側迷走神経)
このうち ①の「安全」モードを最も強く起動するのが鼻呼吸。
理由は、
鼻呼吸は息が長くなる
呼吸がゆっくりと胸とお腹を動かす
迷走神経が刺激される
扁桃体の過活動が落ち着く
「私は安全だ」という感覚が戻る
という一連の流れが自然に起こるから。
ヨガが“心に効く”理由の核心は まさにここにあります。
◆ 5|鼻呼吸が“脳の処理能力”を高める理由
扁桃体が落ち着くと、 次に動き出すのが前頭前野(PFC)と帯状皮質。
これは、 判断力 集中 言葉 感情の整理 物事の優先順位 人間関係のバランス
これらを司る、 脳の“司令塔”の部分です。
つまり、
■ 鼻呼吸 → 安全になる
■ 安全になる → 脳の司令塔が働く
■ 司令塔が働く → 思考も感情も整う
■ 感情が整う → トラウマが溶ける
という流れが起きます。
ヨガの後に
「頭がスッキリする」
「心が軽い」
「よく眠れる」
と感じるのは、 脳の構造的な変化 が起きているからです。
◆ 6|まとめ: 鼻呼吸は“心の深呼吸”であり トラウマを溶かすもっとも優しい方法
ヨガの鼻呼吸は、 リラックスだけではありません。
扁桃体の緊張をゆるめ
迷走神経を目覚めさせ
心の安全ゾーンを作り
トラウマの凍結を溶かし
脳の処理能力を高める
そんな“本当の意味でのセルフケア”です。
ユング心理学が言う「影」が静かに溶け、
ポリヴェーガル理論が言う「安全の神経」が働き、
あなたの本来のエネルギーが戻ってくる。
今日の呼吸が、 あなたの日常に静かな変化をもたらしますように。
臨床治療家こそ、自分のために、クライアントのために
ヨガが必要。
その本質は、呼吸にあります。