増田治療室

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2025-11-27 09:15:00

臨床治療家向け 〜呼吸と心理の解剖〜

【ヨガ×脳科学】

鼻呼吸が「心の安全装置」を目覚めさせる

〜扁桃体・トラウマ・ユング心理学・ポリヴェーガル理論から〜

 

私たちは日々、 仕事、人間関係、家族、情報の洪水の中で

“無意識にストレスを受け続けています”。

 

そのストレスを感じ取っている中心が、 脳の奥にある 扁桃体(へんとうたい) です。

「不安」「緊張」「恐れ」

こうした感情は、実は扁桃体の仕事。

 

そして、 ヨガ・呼吸法(特に鼻呼吸)は

この扁桃体の働きをもっとも優しく整える方法です。

 

今日は なぜ鼻呼吸が心のトラウマを緩め、 脳の処理能力まで高めてくれるのか を、

心理学と神経科学の視点から紹介します。

 

◆ 1|鼻呼吸は「心の安全スイッチ」

——扁桃体に直接アクセスできる唯一の呼吸

 

鼻から入った空気は、 ただ肺に届くだけではありません。

私たちの脳は、鼻の奥から入る空気の変化を 直接、扁桃体へ伝える特殊な回路 を持っています。

これが意味するのは:

● 鼻呼吸は「扁桃体の緊張をゆるめる」

● 鼻を使うと「心の危険信号をオフにしやすくなる」

ということ。

 

つまり、 ヨガの鼻呼吸は “情動の冷却装置” を自然に起動します。

 

◆ 2|鼻が詰まる時は「脳の処理量オーバー」のサイン

ヨガの生徒さんでも

「最近、鼻呼吸がしづらい」

「匂いが分かりにくい」 という声を度々聞きます。

 

実は、これは身体の判断で、

 

● 外からの情報が多くて処理しきれない

● 感情の負荷が強く、扁桃体が疲れている

● 無意識のトラウマが刺激されている

 

そんな時に、 脳が“これ以上は受け取りたくない”という防御として

鼻を閉じることがあるのです。

 

だから鼻が詰まる時ほど、 鼻呼吸があなたを助けてくれます。

 

 

◆ 3|トラウマは「扁桃体の凍結」 ——ユング心理学 × 神経科学

 

ユング派心理学では 「心の影(シャドウ)」が処理されずに残ると、

人生の中で繰り返し同じパターンが現れると言います。

 

神経科学では、

トラウマとは “扁桃体が危険を記憶したまま 情報処理が停止している状態”

と定義されます。

 

つまり 心の影が溶けずに凍ったままの状態。

 

そしてこの凍結を溶かす鍵は 「安全の感覚」。

 

その“安全スイッチ”を押せるのが 鼻呼吸と迷走神経です。

 

 

◆ 4|鼻呼吸が迷走神経(安全の神経)を目覚めさせる こ

こで ポリヴェーガル理論 が登場します。

 

ポリヴェーガル理論では 私たちの心はつねに3つの状態を行き来しています。

 

① 安全・落ち着き(腹側迷走神経)

② 戦う・逃げる(交感神経)

③ 凍りつく・無感覚(背側迷走神経)

 

このうち ①の「安全」モードを最も強く起動するのが鼻呼吸。

 

理由は、

鼻呼吸は息が長くなる

呼吸がゆっくりと胸とお腹を動かす

迷走神経が刺激される

扁桃体の過活動が落ち着く

「私は安全だ」という感覚が戻る

 

という一連の流れが自然に起こるから。

 

ヨガが“心に効く”理由の核心は まさにここにあります。

 

 

◆ 5|鼻呼吸が“脳の処理能力”を高める理由

 

扁桃体が落ち着くと、 次に動き出すのが前頭前野(PFC)と帯状皮質。

これは、 判断力 集中 言葉 感情の整理 物事の優先順位 人間関係のバランス

 

これらを司る、 脳の“司令塔”の部分です。

つまり、

■ 鼻呼吸 → 安全になる

■ 安全になる → 脳の司令塔が働く

■ 司令塔が働く → 思考も感情も整う

■ 感情が整う → トラウマが溶ける

 

という流れが起きます。

 

ヨガの後に

 

「頭がスッキリする」

「心が軽い」

「よく眠れる」

と感じるのは、 脳の構造的な変化 が起きているからです。

 

 

◆ 6|まとめ: 鼻呼吸は“心の深呼吸”であり トラウマを溶かすもっとも優しい方法

 

ヨガの鼻呼吸は、 リラックスだけではありません。

扁桃体の緊張をゆるめ

迷走神経を目覚めさせ

心の安全ゾーンを作り

トラウマの凍結を溶かし

脳の処理能力を高める

 

そんな“本当の意味でのセルフケア”です。

 

ユング心理学が言う「影」が静かに溶け、

ポリヴェーガル理論が言う「安全の神経」が働き、

あなたの本来のエネルギーが戻ってくる。

 

 

今日の呼吸が、 あなたの日常に静かな変化をもたらしますように。   

 

 

臨床治療家こそ、自分のために、クライアントのために

ヨガが必要。

 

 

その本質は、呼吸にあります。

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